⑭麻酔、蘇生科医の一元化を目指して

  

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 全身状態の把握には当然、卒後においても実地の研修が必要になってきます。麻酔、蘇生学の技術や知識を養うためには他科の麻酔経験も必要なのです。歯科医が歯科領域のみに籠ることなく、広く他科の医学分野も見聞すべきだからです。他科との比較により歯科口腔領域がより鮮明にみえてくるのです。それが、ひいては一般の人々に良質で高度な歯科医療を提供することになるからです。

しかし、これに問題があるし、また問題が起こっているのです。歯科医が口腔外科や歯科関係の手術のため全身麻酔をかけることには全く問題はありません。脳外科の手術の全身麻酔を眼科医や泌尿器科医が担当してもなんら問題にもなりません。
ところが、歯科医師がこれを担当すると医師法違反となり告訴されてしまうのです。


口腔外科の手術や他科手術の全身麻酔に要求される技術や知識は、全く同じなのです。今般、札幌医大では、歯科医師が他科の全麻を担当したとして、医師法違反で有罪とされ、罰金刑を課せられてしまったのです。

技術や知識が劣るとかの問題ではなく、これは資格だけの問題なのです。こんな矛盾した話はありません。それでも医師法違反となり告訴されてしまうのです。

これは見かたによれば、起こるべくして起こった事件ともいえるのです。ヒトの身体を医学教育で2分割し、資格を与えた矛盾が、ここに来て、一挙に表面に現れたといってもよいのです。

歯科医師の診療範囲はとにかく制限されているのです。かつてはこれほどうるさくなかったのです。私の場合など他科の全身麻酔を300例近くかけております。その中には表面冷却超低体温の心臓手術の全身麻酔も含まれており、今だったら、とっくに後ろ手にお縄がまわっていたことになるでしょう。

この事件以後、歯科医が他科の全身麻酔を担当する場合、手術を受ける患者に医師が「こちらの方は歯科医ですが、医師が必ず立ち会って責任指導しますから、あなたの麻酔を担当させていただけないでしょうか」と承諾を得なければならなくなりました。

患者の中には「研修の意味は分かるが、なんで私が歯科医の麻酔を受けなければならないのだ」と拒否されることもある、屈辱的の光景が繰り広げられているのです。佐藤運雄の憤慨の声が聞こえてきそうです。

問題になってくるのが、この医師法17条(医業の独占)です。戦前には歯科医師が静脈注射をしただけで医師法違反と告訴された事がありました。一審では有罪となり、罰金を課せられました。二審では日本医師会の全面支援で、ようやく無罪を勝ち取りました。たかが静脈注射です。

現在の札幌医大事件もこれと同じで、理不尽な話しです。かつて作った法律では硬直現象が起きているのです。いまは社会構造が変わってきており、もう合わなくなってきているのです。

いまはもっと多様化しているのです。静脈注射くらいで、告発されたり、このような理不尽さを克服していかなければなりません。医師法17条(医業の独占)によって、阻まれているのです。

歯科大学や大学歯学部そして日本歯科医師会もこういう問題にはもっと積極的に発言していくべきです。とにかく、このままにしておくわけにはいきません。なんらかの対策が必要です。そのためには新法創設を訴えたいと思います。

それは、医師法、歯科医師法をまたいた、その上に立つ麻酔、蘇生標榜医、研修医の制度を創設する必要があります。つまり、麻酔、蘇生の一元化であります。今、医療環境がこれを要求しているのです。

これによって、医師、歯科医師の垣根は取り払らわれ、両者の架け橋となり、くだらない裁判など避けられると考えられるからです。歯科医師側は協力し、粘り強く一歩一歩権利を拡げて行かなければなりません。それが、国民により良質で高度な医療を適切かつ安全に提供できることに繋がるからです。

歯科とは                                       next